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ピアニスト、ピアノ教師、プロフィール(大学卒業から現在)

桐朋学園大学時代…それは、  僕にとって、 「夢のような幸せな(勉強)の時間」でした。

音楽のことを あらゆる面から勉強、吸収させてもらえる、「とても めぐまれた 環境」。

時代が、バブルがはじける前だったこともあり、アルバイトせずに、ひたすら、ピアノの技術獲得や、

表現の追及、さまざまな音楽に触れ「音楽の下地を広げること」に集中して取り組めたいい思い出です。


一方、今、考えると、小さい時から大学卒業まで社会にあまり関わらないで過ごしてしまったので、

今、クローズアップされている「人間力」は、ほとんど養われることなく、大学を卒業してから、

アルバイトを通して、「自分の社交性の無さ」を思い知ることになり、とても苦しい時代に入っていきました。


大学卒業して1年目…アルバイト(清掃会社)を東京でしながら、夏にヨーロッパに行くチャンスに

恵まれました。親と電話で相談し、「おそらく、これが、最初で最後のヨーロッパ行きになるだろうけど、

見聞を広める為にいい経験になるんじゃないか…」…そんな電話での結論で、ぎりぎりの予算で行きました。


私の音楽大学時代の恩師のピアニストである、小川京子先生が、ウィーン郊外のお城をメイン会場にして、

サマーピアノマスタークラスを友人の外国人の先生方と一緒に開く…という催しに参加したのでした。

一週間、そのお城とホテルに缶詰状態になり、ひたすらピアノ音楽を勉強する…というものでした。

その時に、僕は、今現在の「レッスン室がとても大切になる」という、いわゆる「器の重要性」をひしひしと

感じる驚愕の体験をしてしまうのです。


その「お城」の大空間にピアノが置いてあって、客席が150席くらいある、ほんとに「音楽を聴く為の

贅沢な空間」というたたずまいなのですが、そこでピアノの音を鳴らしてみて、びっくりしてしまいました。

音が、パーン、パーン、と反響するんです。僕は今まで日本から出たことがなかったので、「音」といえば、

ピアノからでてくる音しか無いものだと思っていたのですが、それが違うんですね…石の壁に当たって

反射する音があるんです。「ピアノを演奏する指のタッチが今までのものが全く通用しない」…これは、

本当にショックでした。毎日の練習会場でも同じでした。部屋の大きさ、天井の高さ、ピアノの大きさ、

置物のあるなし、全てが音響に関わっているのです。だから、一つの部屋とて「同じ響きがする部屋」は

存在しません。そのマスタークラスは、受講生が日本人とスペイン人だけでした。

スペイン人たちは、音響に戸惑うものはおらず、むしろ、「その空間、その空間に合った音を紡ぎ出すように、

音を楽しんで出していた」ような感じでした。テクニックでは日本人の方が上でしたが、音そのものは、

スペイン人の方がきれいでしたし、美しかったです。

東京に戻ってきて、僕は一大決心をしました。東京で生活をすることを諦め、田舎(山形)に帰り、

親と一緒に「ヨーロッパと同じ音響が作れるレッスン室を作ること」を今後の僕の人生の目標にしました。

そして、8年前に家を建て、レッスン室を併設し、今から2年前にそのレッスン室を改良し、現在の

ホームページにあるようなレッスン室になりました。

一つ、音響でとても大切なことがあります。器…つまり、楽器を鳴らす空間は、「自然素材で作られてるもの

のみを使用すること」です。石のような反響をする安価な素材でコンクリートがありますが、

天然の石(大理石など)とコンクリートは似ていて全く異なるものです。コンクリートは目に見えない

小さな穴が無数にあいていて、そこから、音楽を作るのにとても大切な高倍音を吸収してしまうのです。

ですから、暗く沈んだ音になるので、そこで練習をすると「異常に疲れを覚えます」。

レッスン室を作るうえで大切なことは他に何点もあるのですが、興味を持っていただいた方に

説明をメールなり電話なりで説明することにしてここではこれくらいにしたいと思います。



今は、レッスン室も本当に音が出しやすい空間になり、また、ピアノも手作りのヨーロッパ製のものを

手に入れることができました。本当に良いピアノとすばらしい技術者のご縁ができ、

クラシック音楽発祥の地「イタリア」とのパイプができ、そのイタリアから優秀な指導者を山形に招いて、

マスタークラスをできるようになったことは、よく考えてみれば、僕には奇跡です。

少しずつではありますが、僕の演奏スタイルや指導法をイタリアで研鑽を積んでいるアーティストから

吸収をし、それを「私の生徒に還元できる」…この喜びを今、噛みしめているところです。

追伸:豆知識…ピアノはドイツで初めて作られるようになった…と思われている方がたくさんいらっしゃると

思いますが、ドイツは、機械化導入をして量産化することに成功し有名になることに成功したピアノメーカーを

たくさん抱えています。しかし、機械化導入に伴い、本来の手作業(手作り)でしか出ない「音の豊かさ」を

犠牲にした箇所がたくさんあります。イタリアはもともと、ピアノを手作りで作り始めた発祥の地であり、

有名ではないけれど、手作りでいい音を追求している町工場がたくさんある土地柄なのです。

イタリアの街を歩けば、無名のピアノを売っているショップがけっこうあります。

僕が今、自分のピアノを弾いて思うこと、感じることは、「ピアノは、息をしている、呼吸をしている、

生きている、響きがどんどん豊かになり音色が芳醇になる」ということです。ピアニストを大きく成長させてくれ 
るのもまた、手作りの楽器に勝るものはありません。  

工場で大量生産しているピアノは、「買ったときが一番良くて、だんだん、音が枯れていく」でしょ!?

「無名で終わってもいいからいいものを作り続けたい」という職人魂が生き続けている場所…

それが イタリア なのです。
by shinonome-saitoh | 2012-07-27 13:05 | プロフィール