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ヨーロッパの音楽番組を観るたび思うこと。

僕は、日本の音楽大学を4年間卒業するまで、一歩も、外国に出たことは
ありませんでした。
日本と、外国で、音空間が違うなんて、考えたこともありませんでした。
いや、日本にずっと住んでいたら、そんなこと気にもしなかっただろうし、
どこも、空間や響きなんて、似たり寄ったりだろう…と思ってたに違いありません。

それが、一転したのが、大学卒業後、夏に、私の恩師である小川京子先生が、
ウィーン郊外のお城で、スペイン在住のお友達ピアニストと一緒に夏期ピアノマスタークラスを
開催する、ということで、全く外国に行ったことのない私は、先生と一緒なら大丈夫だろう―と思い、
初めて、遠い遠いヨーロッパに研修に出かけたのでした。

そこで、一番ショックを受けたのは、日本で作り上げた、ピアノのタッチというものが、ヨーロッパでは
あまり綺麗に響かないものである、ということでした。日々、磨きをかけて、音色や指の動きに気を
配ってきたことが、全くといっていいほど、自分の想像を裏切るような響き方しかしないのです。
これは、ショック以外のなにものでもありませんでした。自分が積み上げてきたものを全否定されたような
←実際は自分が思ってるほどそう極端ではないにしろ、でも、弾くところ弾くところ、全てで反響(残響)が
あるのです。←日本で残響があるのは、立派なホールと銭湯だけ。(笑)。大事なレッスンを受ける場所ですら
残響がないんです。その研修では、残響があることに戸惑いました。どうしていいかわからず、右にも左にも
行けない…一歩たりともそこから動くことができない…そんな演奏だったと思います。その研修では、
残響の仕方によってタッチをその時その時で変える、という今までの練習の仕方と180度違う
やり方を教わりました。帰国後、僕の演奏や、これからの自分の人生のたて方をまるっきり変えて
しまいました。普通は、日本の音楽大学を卒業したら、海外に出て研鑽を積んで、帰ってきて、
その成果をみなさんに披露する、というやり方をとります。←この方が、実は、自分がとった方法より
はるかに苦しまなくてすみます。でも、僕もいろいろ悩みましたが、僕は日本に残る決断をしました。
日本に残り、一生懸命お金を貯めて、ヨーロッパと同じ音空間を手に入れる願望を持ちました。
理由は、ヨーロッパでせっかく「ヨーロッパ的な奏法を身につけ」ても、練習する環境が日本に戻ってきて
全く違ってしまったら、「だんだん、ヨーロッパ的な弾き方を維持できなくなってしまう。」と考えたからです。
…僕の性格があまりに繊細すぎるとかこだわりすぎるとかそういう感想をお持ちになる方も
相当いらっしゃると思いますが、僕の「音楽をなんの心配もなく追求できる半永久的な環境」が
欲しかったのです。だから、写真のように、がんばって改築したのも「ヨーロッパ的なお洒落な空間である」
ことを自慢する為ではなく、「純粋に自分に必要不可欠だから」もっといえば、「これがなければ、
響きのことで悩み苦しみ、病気になってしまう」と感じたからです。
ここで、音や声を出された方々は、みなさん驚愕されます。また、それほど広い空間でもないのにも
かかわらず、音がうるさく聴こえないことに驚いて帰って行かれます。
床は、大理石(←これ一番重要、最悪は絨毯。)これで、響きを明るく残響を長くします。壁は、この部屋では
狭いので、大理石は使わず、ヨーロッパで昔から壁に使用されている材料、漆喰を使いました。←
これで、ある程度、うまい具合に音の響きが調整されます。大理石の下地はコンクリート、壁の下地は
うちではベニヤ板です。イタリアからイワン・ドンチェフさんというあの、アルド・チッコリーニのお弟子さんを
招きましたが、とてもすばらしい響きだと褒めていただきました。
ですが、僕のとった行動は、日本で実践するのは、はなはだきついです。なぜなら、仕事をして
お金を稼ぐにしても、「ヨーロッパ留学済み」もしくは「ヨーロッパ在住」という肩書きがなくて、
西洋音楽を生業に生活するのですから、「桐朋出身」これひとつで勝負するのは、この音楽業界
かなりきついです。だから、みなさんにおすすめはできないんです。
しかしながら、やはり、僕のようにデリケートな感性をお持ちで、響きに悩んでる方がおられましたら、
どうぞ、うちに遊びにいらしてください。建築方法や材質の違いでどんな音になるのか、
アドバイスできることと思います。そして、どうぞ、この音空間で、音楽を奏でてみてください。
いわゆる、日本に居ることでのストレスは感じないはずです。(西洋音楽をする環境を手に入れる、という
意味において。)。…一つ、豆知識。大理石10ミリの厚さからくる「音の響き」を木材で出そうとすると、
木材の厚さは15センチ以上にしなければならない、そうです。…個人的な感覚では、それでも、
大理石5ミリの音の響き方と違うように感じておりますが…。(実際に、木材15センチの厚さの空間の
場所に置いてあるピアノを弾いてみたけれど、なんか、やはり、違うように感じます。)。
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大理石がコストの面でクリアできなければ、タイルでもいいと思います。
立派な音楽ホールがタイルでは困りますが、家庭用の音楽空間でしたら、タイルでも
よいと思います。
by shinonome-saitoh | 2010-07-08 09:02 | ピアノ 演奏会 発表会関連記事